「最近ちょっと適当だと思う」 「何が」 「俺の呼び方……っていうか幻影の出し方?たまに出てくるときにこう、腹の辺りが『うっ』てなる感じがする」 「そもそも出てくるときの感覚があるものなのか」 「らしいよ。俺も経験してみて初めて知った」 「……。別に雑に扱ってるつもりもないが」 「つもりがなくても慣れってのはあるだろー?」 「まさか。……慣れるはずがない」 「あー……」 「……悪い」 「いや、俺こそ軽率な発言だった。……まあ俺も俺で勝手に出ることもあるわけだから、おあいこってことで」 「こっちの都合で呼び出してるんだ。それは別に好きにして構わないと言っただろう」 「それはそうなんだけどさあ」 「……とりあえず、善処はする」 「……ん。もしかしたら体調のせいかもな。普通の幻影だって調子悪いとうまく出せなかったりするだろ」 「体調か。あまり自覚はないな」 「なら疲労を溜めやすくなってるか。十年も経てば体力も代謝も落ちてるだろうし」 「……走り込みでもするか」 「お、それならメニュー組もうか。『元アスリート直伝!運動初心者でもできる有酸素運動六種十分間!』」 「それはいい」 「釣れないなあ。……それはそうと。無理のない範囲でやるのは大前提だけどさ、」 「?」 「ああは言ったけど、俺のことはいつでも呼んでよ。そりゃあ、色々と思うところはあるけど」 「……」 「それでも、たったひとりの相棒に頼られるのは素直に嬉しいもんだよ」 「……そうか」 「うん」 「ところでその出てくるときの感覚ってのはどういうものなんだ」 「おっと、この流れでそれ掘り下げる?」 「興味本位だ。あとは……ふ、後学のために、だな」 「はは、豪胆!まあ、酷いときは割と酷いよ。例えるならそうだなあ、きつめの乗り物酔いした状態で、満員電車で前後左右もみくちゃにされながら押し出される感じ?」 「そんななのか」 「そんななんだよ」
(2022-10-22)